1日目のホワイトホース到着は、現地時間の深夜0時を過ぎており、 ロッジに到着後も管理人から 施設内の諸々の説明で時間を割かれ、結局、自室に戻り自由に 動ける時間は午前1時を回っていた。 初日は実際に鑑賞 庭に出てみて、カメラをセッティングしたり状況を確認したりと、これからの 連日撮影の準備として時間を費やすことにした。出荷時カメラにおける ナイトモード撮影はデフォルト設定になっており 、これではオーロラ を撮影するには力量不足だろう。これから、「オーロラ」という特殊撮影について、 試行錯誤で色々と数値を弄り、ピッタリ合った設定にする必要があった。 この日は、肉眼でも 峰の稜線に雲が覆っているのが確認でるくらい、天候には 恵まれていなかった。まあ、これから先3日間もあることだから何時かは晴れるのだろう、という 心理的な余裕が有ったので、全く 期待せずクルガニー山脈(北方向)にアングルを向けて、取敢えず適当にパシャリと1枚シャッターを 切ってみることにした。 「まずは、こんな感じかなぁ・・・」 ・ISO:1600 ・シャッタースピード:5秒 ・F値:3.5 ジージー、ジージー、ガタン! 数秒後、 シャッターが切られ、液晶ビューモニターが微かに輝いた。 |
とにかくシャッターを押してみろ山脈の稜線沿いに、妖しく輝く緑色の光体が写っているのが確認できた。素早く カメラの ビューモードを駆使し、これを拡大して更に念入りに 確認してみた。間違いなく、誤写やゴミの類ではない。「んっ・・・んっ!?オーロラ写ってんじゃん!」 思わず、声が漏れた。 肉眼では相変わらず全天に鉛色の雲が覆っていた。 カメラを通さずオーロラを待つスタンスなら、 こりゃダメだ、とオーロラ出現を諦めるシチュエーションの日であるが、 しかし、ISOを上げシャッタースピードを少し長めに 弄ってみると、機械は機械らしく如実にその姿をフィルムに捉えていた。 更に、適当に何枚か撮影してみた。そして、オーロラの出現を確信したのが以下の2枚だ。 |
光度の弱いオーロラは、肉眼では白からネズミ色に見える。 なので、光が弱いと人間は 雲と混同して認識してしまう。ここで諦めて、カメラを向けないのは実に勿体ない。 しっかりオーロラは出現している。 判別の 一つの指標としては、一般的な雲とは大気の流れに従って同じ方向に並び揃っているが、 この時、横一線に並ぶ状況下に、反して、縦方向に延びる雲様形状体が 出現する事がある。 例えるなら、ちょうど飛行機雲の様な一条の筋を残こして長々と延びる、明らかに周囲とは異なる 形状がそれだ。 とりあえず、こんな時はシャッターを切ってみるといいだろう。 勿論、オーロラを撮影するためにはカメラ本体の設定も大幅に変える必要がある。 世の中には、オーロラ撮影に関する テクニカルな指南本やweb上の動画が数多く存在するので、色々参考にしてみても良いだろう。 ある本では、シャッタースピードは30秒必要と言うし、 5秒程度でも良いとする本もある。また、 ある人はISO値を6000以上にしろ、とも言うが、400程度でも十分という人もいる。 意見も様々で、撮影方法も 十人十色だ。統一した撮影法はないので、状況により臨機応変に対応していくしかない。 ただし、どの人も共通して言っているのは『コンデジだけではハッキリとしたオーロラ撮影は 限界があり、やはり一眼レフカメラが必要』という 意見だ。 市販旅行ガイドブックには、 コンパクトデジタルカメラやスマホカメラでもオーロラ撮影は可能と断言しているが、 これは『相当光度の高い場合』に限られる。 月明りくらいギラギラ光るオーロラなら可能であるが、弱く、肉眼でも雲と混同してしまう 微弱な光のオーロラは、コンデジの撮影では 話に成らない。 オーロラ光度の最高値として例えられる 「月明り」といえば屋外で読書が出来るくらいの明るさであり、 そんな高光度のオーロラは1シーズン中で数回程度しか出現しない。 やはり、確実にフィルムに収めたいならば相応の一眼レフカメラ、 特にISO値を高く設定できる光に対して敏感な機種が望ましいだろう。 |
上記2枚は、同時間帯を撮った例になる。左が一眼レフ、右がコンデジ での撮影。結果は一目瞭然だ。畝って(うねって)動きのあるオーロラなので 、この時間帯のオーロラは かなり光度が高いことが判る。従って、コンデジではこの 程度の写真撮影が限界という事になってしまう。少なくとも、 オーロラに臨機応変に対応するにはISO値が上限3200〜6400くらいは欲しいところ 。 一眼でもバカ高い機種を買う必要はない。 私はボディとレンズ一対の最もベーシックなタイプ、いわゆる 基本セットで5万円程度の物を持参したが、 そのくらいの低価格の機種でも十分撮影可能だった。もし、より高度な撮影を望むなら、 魚眼レンズ購入も面白いかもしれない。広範囲に対象物を撮れるので、地平線の端から端まで一本線のオーロラ を撮影できる。 |
そして、カメラのほか必要なもの3つ。 三脚台、リモコンレリーズ、ブロアー。 (三脚台):対空撮影では必需品。上部体は咄嗟に向きを大きく回転出来る 自由雲台の方が便利。 (リモコンレリーズ):スローシャッターを切る時の必需品。 本体に触れることなく、リモートコントロールが可能なのでブレない被写体を撮る ことが出来る。 (ブロアー):屋外撮影でレンズ表面のゴミを除去したい時、 直接レンズに息を吹きかけてはいけない。日本なら問題無いが、 極度に寒いホワイトホースでは呼気中の 水蒸気が瞬時にレンズ表面に凍結して 、くもって使い物に成らなくなる。こんな時は、このブロアーを使用する。見た目通りの、 形状のまま使用すればいい。中央部分の膨らみを握りると、シュッとシュッと圧風が出てくる。カメラ以外 の用途でも、 キーボードの隙間に入り込んだホコリを 飛ばすに便利なので、 常備して損の無い1品だ。 設定は臨機応変に変えてみる最近の機種は一眼やコンデジ問わず、 夜景を撮影できる「ナイトモード」を搭載している。一応、オーロラを目の前に、 こちらのチャンネルにダイヤルを合わせ出荷時の デフォルト設定撮影を試みたが、やはり予想通りハッキリとした像でオーロラ写真を収めることは 出来なかった。 地道に マニュアルモードに合わせ、 状況に合わせて臨機応変に設定を変えていく柔軟性が必要になる。 私の場合、手持ちの 一眼レフはF値が3.5以下にならないので、こちらは固定で、弄ったのはISOとシャッタースピード の2つだけであった。 |
(ISO):イメージセンサーが光を感じる度合い。通常の晴れた屋外撮影は数値:400前後であるが、 ロッジ周囲は電灯が全く無く、ほぼ暗闇状態なのでかなり高めで撮影した。オーロラ本体の 光度にもよるが、800と1600を頻用して、時として6400くらいまで上げたり下げたりしてみた。 欠点は、高い数値設定でノイズが発生し画像が粗くなること。 上記写真2例のうち、左がISO:12800、右がISO:800の場合である。 (シャッタースピード):私の場合は3〜5秒が多かった。長くても10秒程度。 ほとんどのオーロラは形状も落着いて動くことは少ないが、稀に異常に活発になる瞬間がある。 その場合、30秒だの60秒だのという悠長な 長いシャッター時間を設定をすると、被写体自体がファインダーから消えてしまう恐れがある。 『ブレイクアップ』 と呼ばれ、一般認知されるカーテン状から大きく形を崩し、激しく乱舞した後に 爆発したように分断され消える現象がある。オーロラ最終段階の断末魔のような現象で、 (邦名:オーロラ爆発)と訳されているくらい 瞬間的かつ劇的なショットになる。 あるオーロラ写真家の本には、 ブレイクアップに出会えたらかなり運がよい、と書かれていた。曰く、時間にしても10分程度だと。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 その他の注意で大事なこと@:極寒の屋外から暖かな部屋にカメラを持ち込まないこと。 急激な温度変化により、本体に結露が生じるためだ。一度結露が生じると、レンズが曇ったようにボカシが掛かって暫く 使い物に成らなくなる。 故障した訳では無く、これは水蒸気が 発散し切れば解消する。回復するまで20〜30分は曇った状態が続く。 気温差がある環境では、 宿や屋外に出たり入ったりする時、カメラを持ち込まずに屋外に置いたままにしておく。 ホワイトホース1〜2月の極寒期は 零下40℃近くまで気温が下がる。心配なのは、屋外放置により カメラ本体の駆動が停止する恐れだ。本体を冷やし過ぎない対処として、 毛布を被せておく、ホッカイロを ストッキングに入れ本体に巻付ける、等の方法がある。 |
私の失敗談。最終日、ロッジのチェックアウトが午前4時とあり、ギリギリの3時50分くらい まで屋外でオーロラ撮影を粘っていた。 いよいよ時間が迫ったので、急いで自室に戻り帰り支度をしたのだが、部屋を 最後の記念として撮影したのだが、どうも曇ってぼやけて写っている。 何回撮っても改善しない・・・「ああ、これが結露なのかぁ」と、 納得。その後、30分くらいは全ての撮影でモヤが掛かっていた。 上記撮影のうち、左と中が暖房を撮った比較写真、右は丸テーブルを撮ったもの。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 その他の注意で大事なことA:オーロラ撮影でフラッシュを焚くのは厳禁ということ。多くの撮影者は 光度の弱いオーロラを撮影するために、カメラ本体に光に対する感度を高めた設定を施し、 長時間露出して撮影して いる。この時、周囲でフラッシュをバシバシ焚くと彼らの撮影の妨げになる。 エチケットの一つであると同時に、遥か彼方の天上対象物には全く意味の無い行為であり、更に いたずらにバッテリーを消費してしまう行為でもある。 オーロラ撮影に望むような人は、(偏見かもしれないが)撮影に関し細かく神経質になっているので、 この行為だけは『厳禁』である。 下記の2枚はフラッシュを焚いて撮った写真。 |
言及すると、ロッジ周囲くらいの真っ暗闇な環境では携帯電話等の液晶モニターの微弱な 光ですら嫌がられる。 そんな人達の周りでは、極力、光源を発する物の露出は控えるようにする。そこで 問題になるのが、自分のカメラの設定を液晶モニターを見ずに手元で操れるかどうかだ。 周囲の迷惑を考えモニター表示を切って、指先だけの記憶で、 どのボタンが、どのツマミが、 どの部分が、何の設定を変える機能なのか、予め熟知しておく必要がある。 モニターを見ながらの両立作業でないと案外難しいものだ。 私は出国前に、夜間撮影やボタン設定の確認を暗闇の環境下で練習してみた。墓地、 霊園と呼ばれる区画は、大抵外灯が無いので夜間のカメラ練習にもってこいの場所だ。 日本でも1〜2月は空気が乾燥して月明りが矢の様に降り注いているので、人工灯が無くとも 暗闇に目が慣れてくると意外に周りが判るものだ。近くに大河があれば、電柱の無い河川敷もいいだろう。 普段気に留めることは無かったが、月明りとはこんなにも明るいのか、と感じてしまう。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 その他の注意で大事なことB:屋外では金属部分を素手で触れないこと。カメラの 細かいボタンを操作する為、無意識に手袋を外してしまいがち。 特にバッテリーの交換時は注意が必要。 極北の1〜2月は零下40℃近くまで気温が下がる こともあるので、掌の水分が瞬時に蒸散して金属部分と結合してしまう。 最後に、カメラ別の比較について言及してみる。 オーロラ撮影の指南本に書かれていた が、撮影者が(アナログフィルムカメラ)(デジタル一眼)(コンデジ)の三品を、同時に 零下40℃の環境下で使用したという。 真っ先に反応しなくなるのがコンデジであった。 電子系統というより、内部の潤滑油が凍結してしまうことから起きるようである。 次いで、デジタル一眼。過酷な状況の下、最後まで頑張ったのがアナログな フィルムカメラであったという。 従って、オーロラ撮影と云うと未だにフィルムカメラを強く支持する人がいる。 また、デジタルカメラの バッテリーは、秀吉の如く懐に入れておき常に体温で温めた状態にしておく事が大事だ。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 この日、結局一番写りが良かったのが下の一枚だ。出現時間は、午前3時くらい。 |
1晩で4〜5波数のカーテン幕が流れてくる一般的なオーロラ はカーテン形状の幕がユラユラ揺れながら北から南方向に流れてくる。 遠視すれば全体像を側面から見る事になり、いわゆる 一筋の横線で見えるし、頭上を通過する際に真下から覗き込むなら、 蛇行するヘビの様なS字の状態で見える。 この様に、オーロラはあまりにも巨大な対象物なので、見る方向や角度によって様々な 形を再現してしまう。海や国という枠を超え多様な印象を与えてきたので、古今東西、多くの 表現で語り継がれてきた。 |
オーロラオーバル下では、 大抵日没から日の出にかけての約6〜8時間に、4〜5波程度のカーテン状の 巨大物体が流れてくる。 1時間に1波程度で自分の位置に光の帯が襲来する感覚だ。 傾向としては、より深夜帯の午前2〜4時にかけて一番活発かつ、光度も高くなる。 |
肉眼でオーロラ本体が見えなくても、とりあえず暗い夜空に向ってシャッターを切りまくってみる。 何かしらの結果が残せるはずだ。ここ、ホワイトホースの年間オーロラ発生率は200日を超える。 しかし、誤解しがちだが、 (肉眼で目視できるオーロラ) ≠ (オーロラ発生) 光の弱いオーロラも発生日として1カウントされている。本日は、その1/200日 として記録されている。何だか 納得とも諦めともつかない複雑な心情を憶えたが、時計を見ると午前4時を過ぎており 東の空は薄っすらと朝日を照りつけ始めていた。 もう、オーロラ鑑賞の時間はtime upだった。 こうして、3日滞在期間の1日目が終了。 「まっ、こんなモノか」 正直、たいした感動は無かった。初日を終えて多少落胆交じりの気分だった。現状、 雑誌や写真で見る鮮やかなオーロラとはかけ離れていたからだ。 しかし、翌日この落胆を見事に砕いてくれる出来事が起こることになる。 その瞬間まで、しばしの眠りに落ちる。 渡航の疲れと初日の緊張から、この日はベットに倒れ込むと直ぐに泥のように眠ってしまった。 ムニャムニャ、ムニャムニャ、まどろみに暗天を蠢く緑一色を夢見ながら・・・ |
|