生きてる事が功名か

クフ王とカフラー王の
中間あたりで車は停車した。


カフラー王のピラミッド


エジプトで最も美しいピラミッド


   カフラー王のピラミッドがクフ王に比べ綺麗に見えるのは何故なのだろう。

   美しいと云うことは、同時に大きいとの形容も当てはまるのかもしれない。 2つを比べると根本的な大きさ はほぼ互角であるが、クフ王よりその構造が急角度に設計され、 かつ高い台地に建設されたことで、より大きく見えるようである。

クフ王:138m(もとの高さ146.59m)、底辺:230.37m、勾配:51度50分40

カフラー王:136m (もとの高さ143.87m)、底辺:215.29m、勾配:53度10分


クフ王とカフラー王のピラミッド Pyramid of Khufu and Khafra



   東側には葬祭殿があり、河岸神殿と数百mの参道で直結されている。 河岸神殿の隣には、あのスフィンクスがあり周囲施設は総称してピラミッド複合体、いわゆる ピラミッドコンプレックスと呼ばれている。
   このため、スフィンクスとはカフラー王の付属施設と考えられ 顔貌はカフラー王のそれに似ているとされている。

   この東側の複合体の真反対は観光用舗装道があり、そこから西側は ほぼ剥き出しのリビア砂漠が広がるのみである。当地のこの角度からの展望だと周囲に 遮るものもないので綺麗にカフラー王のピラミッドが写真に撮れる。

   上部と下層一部には化粧石が残っており、在りし日の荘厳さや極彩感を今 に伝えている。カフラー王のピラミッドはエジプトで最も美しいピラミッドだと云われ ている。化粧石が太陽の光を反射し全面塗石されていたであろう完成当時は、遠視でも 目立って輝いて見えた極美の巨大モニュメントだったに違いない。13世紀、この地に 大地震が起こり化粧石にヒビが入り、一部が崩壊するに至った。これを機に 付近の建設業者が挙って表面石を剥がし、タイル築材として使った。以来、 この様な外観が完成したのだという。



カフラー王頂点 top Monument クフ王頂点 カフラー王頂点


   基礎石の平均重量は2,5tであるが、大きさも重さも 異なる石も存在する。基底層に使用された石灰岩に至っては最大で数十トンもの重量の 巨石を使っている部分もある。これらの石質組成や大きさなどからの違いから、 古王国時代の数あるピラミッドにおける、 切り出し場所の特定や建築年、そして製造法を知るための一つの 指標になっている。


メンカウラー王のピラミッド

    カフラー王を左窓に舗装路をそのまま南に進路を取り、500mほど直進すると メンカウラー王のピラミッドを正面にみる事ができる。物理的な 大きさから見ても2つの巨大ピラミッド を前には、その存在感はくすんでしまう、というのが正直な印象だ。

メンカウラー王:62m (もとの高さ65.5m)、底辺105m、勾配51度20分

   メンカウラー王はカフラー王の息子、つまりはクフ王の孫に 当たるとされているが、 時代の王権衰退がピラミッドのそれにも反映し、このような造形物での差が 出ているのだという。表面化粧石の残存部から推測するところ、前者のような石灰岩でなく 花崗岩が使用されている事から、完成当時はダフシュールの赤のピラミッド のような赤味掛かった外観だったと言われている。

内部へは木製の階段から入場が可能である。


メンカウラー王 entrance


   正面をそのまま下り、突当りを右に折れ、更に進むと玄室がありその手前 に側室がある。どちらも小さく、長居して観察する価値はあまり無さそうだ。通路も短く一方通行 で味気ないものだったので早々に飽きてしまった。
   あっさりと出口に返してきた私をニコニコしながらガイドが出迎えて いた。腕時計にチラリと視線を落とし、全く想定内の行動をしてくれる 男だ、と全く想定内に進むタイムスケジュールにご満悦の表情だ。

『じゃ、次のパノラマポイントに行きましょう!』

   再び車に乗り込み、次なる 目的地、ギザのピラミッド観光のハイライトの一つ ともいえるビューポイントへ向かう。少し名残惜しくメンカウラー王のピラミッド を車窓より返り見ると、北壁中央に大きな穴が開いているのが確認できた。

「あの穴はなんですか?」
『ああ、あれはピラミッドを壊そうとした跡です』

   その昔、ピラミッドの破壊を試みてみたが 破壊できずに終わった名残であるという。なるほど、太古より 其処に在った巨大なモニュメントはその耐久性という点においても、 桁外れの存在感を誇示している訳か。ギリシャの歴史家 ヘロドトスが、これはクフ王の墓だと、『歴史』に記したのがB、C400 もの前のはなしだ。過去からの伝承として語られる時代の2000年も前から (いやもっと昔からなのかも知れないが、) 大概の造形を崩さずに建ち続けたその途方は、 やはり賞賛されるべく建築法であり、 それを体現し得たピラミッドとは世界遺産の名に相応しい金字塔だ、と改めて 感嘆する。



メンカウラー王北壁 舗装道


   豊富な知識を有するガイドだと会話も弾んで楽しいものだ。 すっかり心を許したこともあり、昨日のタクシーの顛末を彼に語ると、

『それは大変でしたねぇ、いい事を教えてあげましょう』
「ほう」
『マイクロタクシーを使えば1£で市内まで行けますよ』
「ほう」
『白いワゴン型の小バスでね、私も金欠時にはよく使います』
「なるほど、なるほど」

   この白ワゴンとはドアが常時半開きになっている もので、ごく一般に 市内の道路ならどこにでも走っている車両だ。これが乗車賃一律1£で ある程度の区間を走行してくれる、エジプト人にとっても気軽な 交通手段になっているようだ。 アフラーム通りやファイサル通りは 直線なので、ほぼ、どの車両に乗ってもギザ広場やギザ駅に到達するようである。 同等の低額料金には 公的機関として路線バスがあるが、バス番号が例の数式表記になる。 初日からアラブ式の数字の読み方を克服出来なかった私にとっては、ガイドの 話は朗報といえた。

   その他、市内観光や西岸部のピラミッド巡りに必要な タクシーチャーターの料金相場や、各地における治安状況などの 役に立つ情報も色々と教えてもらった。当地の内情や環境に不慣れな旅人には有難いはなしだ。


常時開放ドアから乗り込む どこにでも走っている



3つのピラミッドの位置が意味するもの

   到着後、広場を廻りこむように車は横付けされた。パノラマポイント だけあり、3つのピラミッドが同時にワンフレームに 収まる絶好のポイントである。大分遠くまで来たのだろう、東を望むは遥かに霞が掛かっていた。

   遠近的な視覚の効果を含めて言っても、メンカウラー王に比べて2つの ピラミッドの大きさは際立っている。体積容量として比較すると8倍の差異がある。 ピラミッドの3つの並びはオリオン座の3連星の配置に一致し、恒度の値が それぞれの大きさに一致している、という。これは『オリオン・ミステリー』 の著書ロバート・ボーバルの指摘であるが、現在では懐疑的な見方が強いようである。

   彼の提唱とは別に、 クフ王のピラミッド内部には極々細い通路、シャフトと呼ばれる通気孔が 外壁に向かって伸びている。王の間から、北と南に2本、女王の間からそれぞれ2本、の計4本 あるのだが、これが指す行き着く先が2500年前の北極星やオリオン座、こぐま座やおおいぬ座 の配置を指している。これについては事実のようであり、 何かしらの天文学的な知識の応用が有るのは確かなのだろう。



Panorama point Panorama point Panorama point 対側は広大なリビア砂漠


ピラミッド パノラマポイント Pyramid Panorama




   存分に写真を撮り大満足したので、最後の目的地 スフィンクスへ向うことになった。来た道を引き返す行程 であるので、また相応の時間が掛かるだろう。暇そうに窓外を眺めていると、


『ここで、なぞなぞです』
ガイドが口を開く。


『朝は四本足、昼になると二本、夕方には・・・』
「そんなの簡単だ、答えは人間だろ」


質問を遮るように即答した瞬間、彼の表情から余裕が消えた。


〜朝は四本足、昼は二本足、夕方は三本足になる生き物は何か?〜
スフィンクスが通行人になぞなぞを問い掛け、答えられない場合はその身を 喰い殺した、と‘スフィンクス’と云う議題から展開される 基本的且つ、伝統的メタファーだ。 月刊ムー愛読者の私に 死角はない。


「ちなみに、スフィンクスの顎は大英博物館にあって返還交渉中だよね!」 たたみ掛けると、彼の色は驚愕へと変わった。


『スゴイ!スゴイデスヨー!!』
『このなぞなぞ、答えられたのアナタが初めてデース!』


   ククククッ、こいつぁ痛快だ!
初めてという言葉が誇張であるにせよ、この驚き方からすれば彼の 想定外以上の返答だったことは間違いないだろう。 チョッと得意顔の私に、更なる賛辞の連列が始まった。


『いや〜、初めて見た時から何か違ってたんッスよねー』
「へへへ、誉めても何も出ないですよー」
『頭良さそうデスモ〜ン』
「フォフォフォ、これ以上、儂を天狗にさせるな」
『ボクにもなぞなぞ出してくださいよ〜』


・・・・唐突に凄い要求をしてきたもんだ、この男は


   なぞなぞとな・・・・ここにあって、国境を越えて アラブ人をも納得させ得る頓知の利いた問答を展開させねばならないのだ。 無下に、そんな童の如き言葉戯びなど興味なし、と 一方的に返答するのも憚れるというものだ。彼なりに拙い日本語ながらも 一生懸命コミュニケーションを取っている、その心意気を汲んでやらねば。 はっちゃけ〜はっちゃけ〜・・・ええいっ、賽は投げられたのだ。当たって砕けろだ!


「そもさん」
『あれがスフィンクスです!』
「あっ、はい」

彼の指差す先にスフィンクスがあった。



GギザのピラミッドC
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