生きてる事が功名か

交渉 メーター



    移動手段としてタクシーは非常に便利だ。 エジプトを走るタクシーは 交渉タイプとメータータイプの2種類に大別できる。

   ・交渉タイプは文字通り運転手に行き先を告げて運賃価格を事前交渉するもの。 日本人と判れば、ほぼ間違いなく相場より高い料金をふっかけてくる。 総じて高料金、高トラブルに発展しがちだが、遠距離の行程や1デイチャーターで 良いドライバーにめぐり会えれば結果的には安く収められる。
   ・メータータイプはチェック柄のラインが1本横断している高級車仕様で、初乗りは2,5£(2011年現在) 走行距離毎にメーターが上がっていく。 市内をチョッと移動するのであれば、トラブルを避ける為にも断然メータータイプをお勧めしたい。


お釣りなんてないよ

   事前の知識があったのでホテル前から迷わずメータータクシーを拾い 考古学博物館へ行くよう告げる。到着地はバス停や立体交差路やらが迷路の ように入り組む交通の一大要所だった。その地をタフリール広場と呼ぶ。 横付けされた車の窓からは博物館のオレンジ色の建物が見え、歩いてもすぐソコの至近距離だと分かる。 料金メーターは25£を表示していたので、何気なく100£札を後部座席から渡すと ドライバーは満面の笑み

『お前、気前いい奴だな。さすが日本人だ!』

いや、そうじゃなくてだな・・・・・釣り、釣り、お釣り返してぇ〜

   100£といえど、私にとっても大金である。釣りをよこせと 猛抗議するのだが、持ち合わせがない、無いものは無いの一点張り。 挙句に両手を広げ当惑のポーズだ。おまけに先程まである程度 コミュニケーションとして通じていた英語が、今は全く通じない。 否、かぶりを振って一切の要求を受けつけない、という態度らしい。 ああ、ダメだ。時間の無駄かも・・・・一度萎えた意思は、 人をどこまでも弱気にする。

「じゃあな、親爺。いい授業料だったよ!」

   若干乱暴気味にドアを閉め、その場を後にした。 ・・・・逃げたら負けなのに。 一人イジケながらバックからガイド本を取り出し、タクシー項目を再読する。 そこには間違いなく、こう記載されていた。
<エジプトのタクシードライバーは釣り銭をあまり持ちあわせていない。>
<近距離なら1£を、少し遠ければ5£を用意しよう!>

   卒倒しそうな事実ではあるが、エジプトという処はそういうものらしい。 ああ、もっと隅々まで熟読しておくべきだった。今更ながら自分の不勉強さに腹が立つ。 メータータクシーですらこんなトラブルを抱える火種を持っている。 だが、抗議はお金を渡す前に!なのだ。安易に大札を渡した 私の方が悪い。 100£や200£の高額紙幣であれば 公的な観光地の入場チケット購入だけの使用と心掛け、 乗り物での移動の際は常に小銭の所在を意識すべき、というのが 私からの提言だ。参考にされたし

   一方、良いドライバーであれば、持ち合わせが無い場合には高額紙幣の 受け取りを拒否し小銭を作るように催促する。 そんな時は、車をコンビニ等に横付けし 水でも買って崩せばいい。



ツタンカーメンの黄金のマスク

正面 Egyptian Museum


   考古学博物館はナイル河沿岸に位置し、 巨大バスターミナルを有するタフリール広場の真南にある。 付近にはHilton系の高級ホテルや対岸にはカイロタワーもそびえ建ち カイロ市の観光の一大スポットであるといえる。 基本的に年中無休で営業時間は9〜19時、 金曜日は16時上がりとなっている。入館料は60£だが ミイラ室見学は別途100£必要で、入場券は正面右脇の小屋で買える。



Box Office Ticket


   簡単な手荷物検査を受け入場をはたすと、 まず正面にアメンテホフ3世の巨像が目に飛び込んでくる。 館舎は2階建て中央吹き抜け構造であるが、 この像は巨大過ぎて頭部が2階に飛び出している。圧巻です。 周囲は小部屋により区切られ、それぞれ年代別に取り纏めが成されている。 それらは時系列で配置されてはいるが、特に見学順など無いので 観たいものから好きに観ていけばいい。
   展示物は小さな物や脆い物は基本ガラス張りのショーケースに 収められているが、石棺や像については‘取り敢えず並べておいたわ’ 風情の剥き出し列座なので、直ぐ目の前、チョッと手を伸ばせば 触れることも出来そうな至近距離から眺めることが可能なのだ。

   1階の見所はこの他 にラメセス2世の像、それと200£紙幣の肖像 にもなっている書記座像辺りが有名かと、ただ古代エジプト史に 相応に詳しくないとあまり楽しめないのかもしれない。
   階段を駆け上がり2階に到着。見所は何といってもツタンカーメンの黄金 のマスクだろう。 お目当ては王家の谷から出土した 黄金の装飾品を一堂に展示している『ツタンカーメンの秘法館』にある。 当場は、2階北西から南東まで数フロアをぶち抜いて作った堂々たる一廓で、 一段照明を落とすことにより金の光沢を際立たせる演出がなされている。 この奥座に、あの憧れの黄金のマスクがあるのだ。 私の顔は期待と動悸で紅潮しドンドンピンクになっていった。



Opening Hours 手荷物検査を受けてください 軽食もとれます


考古学博物館 Egyptian Museum




   入場の際は更にもう1回のセキュリティーチェックを 受ける。 1階部のやや地味目な石像郡と対照するかのように、 そこには眩いばかりに光り輝き極彩色を放つ黄金で細工された、 そう文字通りの‘お宝’が並んでいた。 果たして、その回廊のさらに奥には他フロアにはなかった 数多の人集りが形成されてた。

   すごい人気だなぁ、近付くと予想通り群がる人々の中心に マスクが静かに鎮座していた。透き通るような瞳は水晶を、黒目は黒曜石を使って いるという。眼差しは優しく、こちらの慕情など意に介することなく涼しく 遠くを見つめている。 綺麗な瞳をより強調させるのは目周りのブルーラインだ。古代エジプトにおいて金、銀、に 次いで貴重とされるラピスラズリを使用している。 金色と濃青のストライプがまた美しい頭巾部、この製作工程は青塗料を混ぜたガラス物質を枠に 接合させたもので技術的にも高度とのこと。 何よりも全体的なバランスや配色が素晴らしく、 エジプトの宝、人類の至宝と呼ばれるに相応しい一品だ。

   ああ、美しい、美しいなぁ、・・・・俺はもう限界だと思った。

   やはりマスクの周りだけは警備員が常駐して 厳重な警備が敷かれていた。ただ強化ガラスケースに収められてはいるが、 側面や背部から、果てや下からも覗き込むことができマスクの構造を立体的に 捉えることができる場所になっている。 当然だがマスクなので中身は空洞、板金状構造体である。 その厚みは肉眼でも目測できたので、相当なものだろう。実際重さは11kgもあり 質量的な存在感にも圧倒される。文献によれば、金の展性を生かし 1枚板を殴打し形造ったものを2枚張り合わせた製作工程で、強度を上げる為に 意図的に銅を添加して23金に下げている、とのこと。 一説では、その金属組成や芸術性、 歴史的な付加を思慮するところ300兆円ぐらいの価値があると言われている。

   残念ながら、館内は写真撮影が禁止だったので読者の皆さんには 画像を届けるのは叶わなかった。 私としてはこの先、草々にエジプトに再訪することもあるまい。 今生にて思い残しの無いよう目に焼き付けておこうと思い、 穴の開くほどに見入っていたが数分ほど経つと警備員がそろそろ 訝しい眼差しを向けるに至ったので、後ろ髪を引かれる想いなれど その場を後にしたのだ。2階の秘宝館には玉座や寝台などの 大型調度品も展示されているので単純に眺めているだけでも 楽しく、時の経つのを忘れるようだった。


カイロタワー タフリール橋


カイロタワー

   さて出館後、付近を散策することに決めたのだ。 館を出て川沿いに南方向に上ればタフリール橋に、北に下ればシッタ・ オクトーベル橋に至る。どちらも都市の交通大動脈だけあり大変な賑わいだ。 車両による交通量は多いが、両側には歩道が整備されており徒歩での 散策で不自由は感じない。川向うに望むはカイロタワーで 考古学博物館から参るのであれば、手前のシッタ・オクトーベル橋を 使ったほうが近いだろう。

   対岸(正確にはゲズィーラ島と呼ばれる中洲だが、) ここは緑多い公園が整備され塔を遮る建物がないので、 橋を渡ったなら、そのままシンボル目指し進んでいけば迷う事はないだろう。 道路を折れるタイミングはヤシの木の並木通りが見えてくる辺り 、そのまま直進すれば正面口に到着できる。 高さは187mで頂上には展望台が設けられており、周囲360度を 見渡せる大パノラマを楽しむことができる。



ヤシの木の通りが目印 Cairo Tower Cairo Tower Obelisk


カイロタワー Cairo Tower



   写真右の子供がたくさん映っている中央のモニュメントは オベリスクである。この所在はタワーの区画とは別扱いで、小さな公園の中にある。 入場料は2£で子供達が無邪気に遊び、また恋人達が肩を寄せ合う デートスポットにもなっており、皆それぞれ気軽に思い思いの時間を 愉しんでいた。

   本品は世界に現存する30本、うちエジプトが有する7本 の1本に数えられる貴重なもので、保存の状態はかなり良くヒエログリフも はっきり読み取ることができる。オベリスクといえば、慣用句の如く言われる 「切りかけのオベリスク」を思い浮かべてしまう。 掘り出しの途中で放置された遺物であり、その製作工程を探る指標としても 価値の高いものだ。 花崗岩の石切り場として役目を担っていた河上のアスワンにあり 、当地の観光におけるハイライトの1つにもなっている。

   そんな事情もあり此の時まで、観光ルートについては エジプト国内をクルージングで廻る タイプに拘り、女々しくそれに未練を残していたのだが、 カイロを離れる前日にサール・イル・ハガルと呼ばれる 人の手が殆ど加えられていない大遺跡群を訪れるに至り(後述)、 その内容たるや、何と60本のオベリスクが無造作に 転がっている、という壮絶な光景を目にする ことができた。結局それが反覆、大満足できる旅へと転結したの だが、未だこの時点ではその未来を知り得ることはなかった。



Obelisk Ticket


オベリスク カイロ (k)Obelisk Cairo




ナイル河の夜景

   公園で暫く休んでいると、だいぶ日も落ちてきた。 そうだ、ナイル河からの夜景をカメラに収めておこう。再びタフリール広場方向に 橋を歩く。付近は巨大バスターミナルを有するがゆえ 夕刻は帰宅ラッシュも相え、車、人共に混雑具合は極致を迎える。 何やら拡声器で無遠慮に放声してる、クラクションは終始鳴り響き、 行き交う人々もまた負けじと凄いパワーなので、もうドンチャン騒ぎの様な喧騒の波 、まるでお祭りみたいだ!ふっと橋下を眺めるに、 中型のモーターボートがナイル河を多数行き交っている。

   ああ楽しそうだな乗船してみたいな、と素直に思った

   桟橋をよく見てみると乗船者はアラブ人ばかりで、御気楽な観光客が 入り込む雰囲気はない。どうやら、これは水上バスで単なる娯楽の為の遊覧施設ではなく、 立派に市民の足として活躍しているものらしい。 知らずに乗っていれば、とんでもなく遠くに運ばれていたやもしれなかった。 ただ、ファルーカという帆船タイプの船は観光客も気軽に利用できる もので夕涼み等の娯楽遊覧にも使われるようだ。

   完全に日が落ちると、そこは更に輝きを増す。 車のライトや巨大電光掲示板、そして船上電球で演出された光の世界は 、まるで七色のビー玉を敷き詰めたような美しさだ。付近の大きなビルは 大抵高級ホテルであった。あそこから眺める夜景はどんなに素晴らしいものだろう、 少し羨ましく感じながら我がデルタピラミッドホテルへの帰路を急ぐのであった。



水上バス The Nile the night view of Nile


ナイル河 カイロ The Nile Cairo





EギザのピラミッドA
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