本日からは、独りで行動するスケジュールになる。手始めに、
小回りのコース追従で、未だ見てない遺跡を巡る
ことにした。スタートはアンコールトムの東門「勝利の門」だ。市内からトゥクトゥク
を捉まえて象のテラスの広場を通過し、東に進路を取る行程になる。本日のドライバーは、
番号登録制でない、(流し
タイプのトゥクトゥク)で営業する男だ。比較的若く、
軽いノリの男で、トゥクトゥク運転手にも色々と個性があって面白い。
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大回り、小回りコース共にアンコールトムへと繋がる 道は、ワットの脇の西の舗装路 を通過する行順になる。この際、以前に 第三回廊の頂上から見えた気球が気になっていたので、 猛スピードで爆走していたドライバーを制止させ、寄り道を頼んだ。 「あの、気球の下まで行ってくんない?」 『OK』 |
アンコールバルーンの入口は アンコールワットの西正門から、西方向1kmほどの場所に位置している。 広い敷地の中央に滑車装置があり、太い綱で気球の客室部と地面を連結して いる。 客室の 円周状通路には手摺が設備されており、形態上に360度をカンボジア平原を見渡せる 趣向にもなっているようだ。 10〜20人は入るだろうか、という比較的大きな気球だとわかる。 風に流されない為のロープ完備や、落下防止ネットも設けてあり安全な乗物だと 判定できるし、また、 アンコールワット 遺跡の直ぐ前に位置し、上空からの 眺めはかなり楽しそうだと予見できた。早速に、 暇そうにしている職員に声を掛けた。 「搭乗したいんだけど、料金はいくら?」 『今の時間は営業してないよ』 はっ!?浮かんでるじゃないか。遠路はるばる来たのだから、乗せてくれよ。 私の必死の希求をよそに、職員の何とも呑気な対応。 『Youはshock、を受けるだろうが今の季節は1日2回しか飛ばしていない』 「はうあっ!」 『sunrise or sunsetだ』 ホテル傘下の施設らしく、あまり対外的な儲けは考えて無いようだ。 団体予約以外の個人で乗せる機会は限られているようで、天候にも大きく左右される。 風が強かったり、大雨であれば当然中止になるだろう。 アンコールワットは 真東に位置するので、もちろん朝日の昇るsunriseの方が景観がいいのは自明だった。 「個人の予約は出来るかい?」 『Noだ。早朝バルーンの是非は、その日になってみないとわからない。 乗りたければ朝5時に電話してみろ。出なければ直接当地まで来るんだな』 成る程、なかなか敷居が高そうだ。踵を返し、とぼとぼとトゥクトゥクの停めてある駐車場まで 帰った。成り行きを見守っていたドライバーが慰めの言葉をかける。 『当たり前だ、お前一人の為に大きな気球飛ばすわけないだろ。 早朝、ここまで来たければ、またオレを呼びな。連れてきてやるぜ。 じゃ、小回りコースに向けてレッツゴーだ!』 軽いエンジン音をふかせトゥクトゥクの車体が動き出し、200m の上空に浮かぶ黄色い気球を、ゆっくりと視界から遠ざけていく・・・ 俺は執念の男、必ず乗ってみせる!瞳にメラメラと燃え上がる執念の炎が黄球と同化した。 チャウ・サイ・テボーダ勝利の門をくぐると、進むこと先500m程で 道を挟んだ両脇に石積みの塔が見えてくる。 右がチャウ・サイ・テボーダ、左がトマノンだ。散在する遺跡群を巡るための通過点である、この勝利の門からの 道程は 南大門ほどにないにせよ、観光用としてはよく使う門であるといえるだろう。 その構成は上部に四面仏を有し、左右に神象の鼻の石積があり、 南大門とほぼ同じ造りである。門の両脇に延びるラテライト壁は崩壊し ている部分があり、 場所によっては切れ目から塀の上に立つ事も出来きる。 8mという高経が、実用性を兼ね備えた防御壁であった事を確認できるだろう。 |
脅威であった隣国チャンパ(ベトナム)の 軍隊を野外戦で迎撃し、帰還した兵が門をくぐり直線で 結ばれた王宮前の広場に辿り着いて勝利を報告した。 この為、門は王宮のある象のテラス前から、ベトナムの方向を向いた 東側に開口し「勝利の門」と呼ばれている。ちなみに勝利の門の南方500m ほど周壁沿いの、もう1つの門は死者の門と呼ばれている。 |
チャウ・サイ・テボーダは40×50m四方の小さな寺院だ。12世紀 初頭に建造され、宗教はヒンドゥー教である。デバター像のリリーフが 多いのが特徴だ。 |
正門から、バプオーンのような円柱の上を架け橋している「空中参道」が 延びている。中央祠堂と両脇の塔が高経2、5mの石柱通路で繋がっており、中央に 小さな地蔵が安置されている。 |
道を挟んだ位置に2つの遺跡が連続しているので、 付近は土産屋が充実しており、子供の売り子が声を掛けてくる。 |
『これ、買ってよ〜』 「no thank you」 『3$でいいからさ〜』 「要らないって、言っちょるやろ!」 しつこいオコチャマだこと・・・放っておくと、どこまでも付いてくる。 道を挟んだ隣の遺跡まで声を掛け続けた少女を確認した所で、 無視を決め込んでいた私の心も終に折れる。振り返ると、小さな手に握られた ビニールに包装された小袋の中には、2つの素焼きのプレートが 入っており、上端をホッチキスで乱雑に留め杭を打ってあるのが見えた。 |
アンコールワットの西参道、そしてアンコールトムの観世音菩薩 が描かれたデザイン。手に取れば裏にはマグネット が付いており、 観光地で一般的に目にする、ありきたりの小品であることが分かる。 「1$なら買ってやってもいいよ」 『じゃ、2$でいいわよ』 「別に要らん物なんだけどなぁ〜、1$と2000Rでどう?」 『ダメ!2$ちょーだい』 「じゃ、1ド」 『ダメ!ツーダーラー!』 「・・・わかったよ、オマエにゃ負けたよ」 帰国後、早速に開封し眺めていたところ、即行で マグネット部のボンドが剥離した。磁力も弱く、上段の冷凍庫の扉に貼っておくと、 翌日には下段の冷蔵庫ゾーンまで落下している、という全く実用性に欠けた代物であった。 子供が近寄ってくる時の商品は、マグネットの他、ブレスレットなどのアクセサリー、 香料、トカゲ型の文鎮、などがあった。購入の意志がなければ無視していれば良い。大抵は 去っていく。 |
トマノン両隣に位置する、チャウ・サイ・テボーダとトマノンは共に アンコールワット寺院を建てた スールヤヴァルマン二世による創建の寺で、時代として12世紀初頭のことである。寺の規模は、チャウ・サイ・テボーダとほぼ同格で、トマノンは60×45mと先のものより若干 大きい。 信仰の母体はヒンドゥーである。中央祀壇内部のまぐさ石は、怪鳥ガルーダに跨るヴィシュヌ神、という 構図だ。 |
中央祀壇東側の デバター像の上部にかけ、同時に連なる石柱に、かなり長い透かし彫りが残存 している。彫りが深く、 保存状態が良い。 |
2つの遺跡を見学した後、東に進路を取る。500mほどで橋が架かっている。 シェムリアップ川だ。ごく小さな河川であるが、アンコールトムの環濠に水を引く役割を持っている。 この川が南下し、 また、周囲の幾つもの河川から トレンサップ湖で貯留された雨水は、やがてトレンサップ川という1本の大河に生まれ変わる。 このトレンサップ川は 首都プノンペン辺りでメコン川と合流し、最終的に南シナ海に開ける。 |
橋を渡り、すぐ見えるのがタ・ケウ、そして南にあるのがタ・プロームだ。 |