生きてる事が功名か

オアシス

   ファイユームは メイドゥームをさらに西方向に込んで行く。そこは、カルーン湖があり西サハラの 中に在っては、ボートに乗り、又は釣りを楽しめては、と観光産業もあり風土的 な位置付けとしてはオアシスにあたる。カルーン湖は大きな湖で、むかしはワニも生息していた。 以降の遺跡にも、そのワニのモチーフによる様々な片鱗を見ることが出来る。



交通警察 交通警察



   それにしても、このドライバーはヘビースモーカーだ。ウインドウを最大限に 開放している車内では、煙と灰が容赦なく風圧で後部座席まで 侵入してくる。ああ、煙が目にしみる・・・・


「smoke gets in my eyes.....」
『アアン!?』
「あっ、すいません。もう、いいです」
『今から、警察の許可取ってくる。まってろ、モクモク』


   車は減速し、路肩にあるボックス式の小屋に車体を寄せた。 何やら、ドライバーは降車して中の人と交渉中、今度はその男を1人連れて再来し、 3人でドライビングすることになった。助手席に乗り込んだ 交通警察と思しきその男は、 目の前を広がる景色にアチラだ、コチラだ、と直接指をさしながら道筋を教授していた。 道案内も兼ているような存在なのだろう。
   30分くらいすると、ハワーラのピラミッドが見えてきた。



HAWARA ハワーラのピラミッド ticket



   外形は一見、ピラミッドと呼ぶには余りにおこがましい ものだった。何だ、こりゃ!? 降車後、その雄姿たるを再検してみるが、一時の情を改悛せざるべき要素は やはり無いに等しい。


「こんなん、単なる丘じゃん・・・」
『ククククッ、そう思うんなら、もっと近付いて見てみるがいいさ!』
「ぬぁ〜に〜」


   誰だ?とばかりに顧みれば、そこには、またしても別の大男が 余裕の笑みを浮かべて直立していた。現地ガイドの登場だ。 男は付近にある、ブロック を手に取り勝手に講釈を始めた。


『いわゆる、こんなレンガを積んだ建物なわけなんだ』
「ほう」



日干しレンガ ハワーラのピラミッド


ハワーラのピラミッド  HAWARA




   男の手の内にあった日干しレンガは、握りしめるとボロボロと儚く 崩れだした。 一見して、万年単位の堆積物によって成されていると思わせた、その 層状横紋は、実際が1つ1つの統一規格によって積層させたレンガによる、 過去からの遺物だった。 創建年は第12王朝というので、紀元前2000年前後になる。 次々と間をおかず乱建されたピラミッド事業も、そろそろこの時代には下火を迎えたようで、 その大きさ、築材料、外観とかなりの粗形に成り下がっている 。この年代は、首都はテーベ(現在のルクソール) へと遷都され、建築の情熱はかの地で巨大な神殿形態として変位し、そして、 上エジプト文化として花開くことになったようだ。


   いい加減、 こんな界隈まで来る観光客も少ないのだろう。周りを見渡すものの、そこには 華やかな観光地とは程遠い雰囲気で、実際、 職員のほうが多いだろうという有様だ。職員にとっても ガイドが暇つぶし、否、入場料の他に観光客の引導や解説による チップとしての、その実、彼等の副収入にもなっている業務の位置付けでもあるのだろう。 また、付近の治安の悪さも手伝ってか、職員自身が自警や施設内の安全 監視を自行せざるを得ない意味合いもあるのかもしれない。


戯れに、その頂上に登らせてくれと提言すれば、
『この馬鹿タレが〜、死にたいのか小僧!いのちの保障はできんぞ』


   など、即時に諫言が返答される始末。 登頂には階段らしき気の利いた通路など全く無く、無理に断行すれば踏地の脆弱さ故に、 容易に足元を掬われ、いわゆるロウリングストオンズなる、様態を呈し、今期こそ 怪我は出血程度の軽症では済まされまい・・・。


「フッ、おまいにゃ負けたよ」
と、かぶりを振るうと、
『こっちに来るんだ』
と、ばかりに手招きで私をピラミッドの入場口へと誘った。



ハワーラのピラミッド entrance


ハワーラのピラミッド2  HAWARA



   崩れかけの道内をそのまま10mくらい下ると、


『ここは、地下の玄室へと通じているんだけどな・・・』
「ほう」
『付近を流れる運河から零れ出た地下水が塞いでしまっているんだ』
「ほう」
『試しに石を投げてごらん』


ポチョン。と、そこには投石による波動の形成と、更に跳ね返った飛沫が 二重三重の応呼輪を形成していった。波紋疾走。一石を投じる、その際の静寂の中の 呑入音と洞内の共鳴具合から、その水溜まりが、かなりの深淵であるを如実に証明していた。


戯れに、みなもに突き出る岩礁に足をかければ、
『この馬鹿タレが〜、死にたいのか小僧!いのちの保障はできんぞ』


   など、即時に諫言が返答される始末。聞けば、その深度は 7mにもなり、これにより発掘が思う様に進まない因果にも成っているのだ そうだ。水分を含むがゆえの環境が、外壁の日干しレンガの 脆弱さにも拍車を掛けているのも間違いはないだろう。



welcome! 水没


ハワーラのピラミッド3  HAWARA



ラビリンス 王の迷宮

   内部を出た後、対面に砂の小山が連なった風景をみる事が出来る。 ここには、王の築いた12の庭園と1500の部屋があり、それは迷宮の様相で あったそうだが、現在は無情なくらいに砂に埋もれ、その片鱗を確認することは叶わなかった。



運河 labyrinth


ハワーラ 迷宮  HAWARA labyrinth



   ファイユームは古代遺跡のほかに、カルーン湖が有名である。 当時ワニが生息していたこの地を、古代人はクロコディロポリスと呼び、ワニの 頭を持つソベク神を称えた神殿を建てたそうである。



artifact artifact artifact crocodile


   風化しゆく遺跡の末路をみた気がした。 古代の王朝と、そこで営まれた人々の生活を知る、その手掛かりさえも 時間の経過で土に埋もれ忘れられていく運命なのだろう。

   退場後、車は西寄りの大回り にルートを取り、砂漠を北に突っ切ってカイロ 方向を目指した。おそらくは高速道路なのだろう、その大道路は 途中で新興のマンション群がポツリポツリと建つほかは、 相変わらずの砂漠が広がっているのみであった。

『どうだ、楽しめたか?モクモク』

   煙草を片手に、日本なら一発免停になりそうな速度過多 でのハンドル裁きで 私に尋ねた。ああ、と言うには いいが、それにしてもよく煙草を吸う親爺である。 かれこれ、もう2箱は空けているだろう。咳き込んで は火を揉消し、また新たな煙草の先端に火を点す、との繰り返し劇場で、 お宅の身体の方が心配になってくる、と諫言を呈したくなる・・・ その後、1時間ほどでギザに到着した。



the Sahara マンション the Sahara the Sahara


「あばよ、人間機関車。身体を大事にな」


   チャーター代のほか、多少なれどの心付けをして男と別れた。 エジプト国内のピラミッドは、結果として言えば、大小様々に総計108基 も国内にある訳なのだから、西岸域でも更なる別のピラミッドの探求が 可能な訳ではある。しかし、観光地としてのインフラ整備や、また見学や資料的な拝観を履行 できるような段階にまでも、内部施設が整って無いのが多くを占めるようである。
   実際、本日のファイユーム内にも、ハワーラ と別にラフーンのピラミッドと呼ばれる史跡があり、序に 訪問する予定であったが、当地の(観光客が鞄のひったくりに遭う等の)治安の悪さ もあってか、ドライバーが私の為に観光許可取得に腐心してくれたが、 結局、警察からも件が下りず諦観の念を抱くに至る経緯があったのだ。

   これ以上は、もう無理にピラミッドに拘る必要もあるまい。と、 新たに別の観光に着眼しようか、暫時考慮の末、明日は再度カイロ市に 入りて主に南方面シタデルとオールドカイロを観光しよう、と決断した。


PシタデルA

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